290)ナチスは良いことをしていなかった
積読にしたままだった『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店、2023年)をようやく読んだ。武田知弘『ナチスの発明』(彩図社、2006年)や下掲した歴史修正主義者である高須のツイートなどを下敷きに、ナチがしてきた(とされる)良いことが実際にはどうだったのかを、〈事実〉〈解釈〉〈意見〉の三点から検証する。
このアホ丸出しのツイートは一旦置いておくとして、たとえば次のようなトピックが取り上げられている。
- ヒトラーは民主的に選ばれた
- ナチスは経済回復させた
- ナチスは社会保障を充実させた
- ナチスはガン撲滅運動をした
- ナチスはラジオや車などを発明した
- ナチスは休暇といった労働政策を充実させた
- ナチスはアウトバーンを建設した
- ナチスは環境保全した
結論から書こう。ナチスは良いことをしていない。
これらの多くは、前政権のヴァイマール時代に計画されていた、または(経済が)底をついていた、あるいは元々その分野(医学)の賢威であっただけであり、それをナチ時代に実行されただけのことである。社会保障の充実に関しても、「人種的に正しく、遺伝的に健康で、反社会的でない」人々が対象であるが、それでも政策の恩恵を正しく受けられた訳ではない。
興味深いことに、当書では「ナチスがした良いこと」の〝可能性〟にも触れている。それは、女性のがん罹患率が1952年から1990年にかけて12%も低下した、というものだ(107頁)。この原因として『健康帝国ナチス』の著者プロクターは「家父長的干渉主義」の影響を指摘している。つまり、女性の使命は出産であり保護しなればならない、という民族体に従うものである。
以上、冒頭に示した通りナチスは良いことをしていなかった。唯一といってもいい女性のがん罹患率の低下も、断種や安楽死が前提にある家父長的干渉主義の影響が考えられるため、手放しで褒められるものでもなかった。
話は変わるが、関東大震災時の朝鮮人にまつわるデマを検証する前田恭二『関東大震災と流言』(2023年)という本も岩波ブックレットから出版されている。こちらも近いうちに読んでみたい。
2023-11-02