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金沢音楽制作

金沢音楽制作では、楽曲・楽譜の制作と、作曲や写譜などレッスンを行っています。


258)『はだしのゲン』を読み続ける

広島市が、小学3年生の平和教材から中沢啓治の『はだしのゲン』を外すいう。外す理由は、教科書に抄録されている、「浪曲で小銭を稼ぐ」場面と「コイを盗む」場面が時代にそぐわず、誤解を与えるからだという。もっともらしい言い訳だが、この問題の本質は子供から『はだしのゲン』を遠ざけることである。

2012年の松江市教育委員会が行った小中学校での閲覧制限も記憶に新しい。こちらは、歴史修正主義者でヘイト団体である在特会(在日特権を許さない市民の会)がイチャモンをつけ、教委がそれに同調した形になっている。

なぜそこまで『はだしのゲン』を遠ざけたいのだろうか。その答えは、『はだしのゲン』で描かれているのは、原爆の恐ろしさ(威力)だけではなく、日本のなさけない姿もまた描いているからである。日本を美しい国だと思いこませたい連中にとって『はだしのゲン』は非常に都合が悪いのだ。

日本のなさけない姿とは、弱者を徹底的にいたぶる日本人の気質や戦争責任の問題や原爆の問題といった戦後処理をしない日本の振る舞いである。たとえば、作中でゲンたちがヤクザと関わる原因は、戦争孤児を国が7年間も放置したことに起因する。その日暮らしもままならない戦争孤児を鉄砲玉として飼いならす酷い話だ。

まだ『はたしのゲン』が未読の人は、自らの手で取って是非読んで欲しい。色々な衝撃を受けるはずだ。ただし、一般的な汐文社版でも全10巻である。読むのが難しいという人は、岩波ブックレットで中沢が書いた『はだしのゲンはピカドンを忘れない』(1982)という、エッセンスが詰まった薄い冊子があるので、そちらを読んでほしい。どちらも、図書館にある。

最後に1つだけ補足したい。「浪曲で小銭を稼ぐ」話と「コイを盗む」話は、独立した話ではなく、『はだしのゲン』(1巻、汐文社)の184〜203頁で連続して描かれた同一の話でかつ原爆が広島に落とされる前の話である。ネットの記事を読んでいると、本当に『はだしのゲン』を読んだ上で文章を書いているのか微妙に感じてしまった。

2023-03-20