90)シンプルな線を書く
編曲において、編成が大きく派手なサウンドだと上手に聞こえるようだ。その思想を体現したものが、近年の映画音楽や映画予告の音楽だろう。ピアニッシモのトレモロから入る弦楽合奏に金管が混ざり、ティンパニが連打されるアレである。この手の安易な楽曲は子供だまし以外の何者でもないが、みながイメージする凄いサウンドの代表格なのかもしれない。ただし、これはDAW(と音源)の発達によって容易に表現できるもので、それを目的とした専用の音源もあるほどだ。
しかし、うまく聞こえるように音をならべる、というのは違うと思う。それは、難解な言葉をならべて上手く見せようとする文章と同じで、空疎なものだからだ。まずはシンプルな線を書くことを心がけるべきであり、同時に永遠の課題でもある。これは作曲に限らず、どの世界にも通ずることだ。たとえばプログラミングで重要となるのは、テクニカルで奇抜な上手く見せるコードを書くことではなく、保守性や再利用性といった基本的なことである。DAW(に限らず技術)の発達は、自己表現を容易にするが、同時に幼稚なものを幼稚と感じさせない二重性を秘めている。
2019-10-27