72)作業用BGMと作業
動画サイトを閲覧していると、『……作業用BGM』と題した、楽曲を特定の要素にしたがってまとめたであろう動画(音楽集)を目にする。動画サイトには、多種多様な作業用BGMがあげられており、それだけ市民権を得ているということなのであろう。だが、僕は音楽を流しながらだと作業が中々進まない、つまり音楽が作業の邪魔と感じてしまうのである。
作業BGMとは、勉強や仕事などをする時に音楽を流すことでその効率をよくしよう、というものだ。ようするに、作業用に特化した音楽選集である。作業用BGMの内容は、映像作品の劇伴に限定されず、クラシックやジャズからポップスやロックまでなんでも該当するようである。つまり、作業中に流す楽曲はすべて作業用BGMであるといえよう。
しかし、「作業用」BGMとはなんともおかしな名称ではないか。というのも、BGM(Back Ground Music)とはそもそも作業を効率よく行う、という目的をもたせた音楽だからだ。少なくとも、産業革命以後の工場で(アメリカの工場だった気がするが忘れた)、作業効率をあげるためにBGMが流されていたことを知っている。この伝統的BGMと作業用BGMの決定的な違いをあげるならば、楽曲選択の自由の有無、そして後述する手法の違いだろうか。
冒頭に立ち戻ろう。僕はBGMを聞いて作業することは苦手である。なぜなら、楽曲の展開が気になってしまって、作業よりBGMの方に意識が集中してしまうからだ。それが未知の楽曲であれば、今後どのように展開されていくのかを想像してしまうし、裏切られた表現に感嘆するだろう。また、これは既知の楽曲の場合にも当てはまる。なにも聞くのは、メロディーや形式だけではない。意識を内声やオーケストレーションに向ければ、何かしら新しい発見(新しい聞き方)があるからだ。だが、その一方で、展開に乏しかったり、いい加減な楽曲を聞いた場合は、ストレスが溜まること間違いなしである。
実はこの文章、YouTubeでBGMを流しながら書いたものである。だが、やはり音楽が気になってしまい殆ど集中できなかった。楽曲で気になるところを発見すると、とたんに巻き戻して確認するのだから、書くことに集中できるわけないのである。しかし、小音量にすれば問題なく作業できることも理解している。これは、前者は音楽を聞くこと、後者は雑音を相殺すること、とそれぞれ(効率をよくする)目的は同じでもその手法が違うためであろう。したがって、前述した工場における(伝統的)BGMは、機械から発せられる騒音を軽減する役割や、あるいは時間を知らせるといった記号的な意味合いが強いではないかと推測される。
ところで、僕は〈歌詞〉を全く聞かない。たとえば、フォーレの歌曲は好きだが、何を言ってるのか分からないし興味もない。それがポップスだったとしても歌詞を意識して聞くことはないのである(サビですら微妙である)。ようは、曲の展開や技法しか興味がないのだろう。
2019-06-05