100)京へ築地に坂東さ
「よこっちょポッケまーと」という、金澤表参道(横安江町商店街)をまるまる使った大きなフリーマーケットが年に何度か開催されている。食べ物から中古雑貨、そして作家による手工芸品まで多様性に富んだ活気あるイベントで、予定があえば積極的に参加している。中でも楽しみにしているのは、いつくかある小さな古本屋である。
古本屋では、ワゴンの中に文庫・新書を中心とした古書が敷き詰められている。本を1冊だけ選ぶと200円の支払いだが、3冊選ぶと400円となりお得になる(正しい値段は忘れた)。ぼくが選んだのは、『善の研究』『原民喜全詩集』『春の海――宮城道雄随筆集』の3冊で、全て岩波文庫だ(岩波文庫が古本で安かった場合、積ん読前提で購入している)。実は、一冊だけ岩波文庫とどちらするか悩んだ本があった。それは岩波新書の『ことばの道草』(1999)という本で、岩波文庫を好んで購入している人にとって馴染みがある内容だったからだ。
さて、岩波文庫には特徴的な栞が挟まっている。片面は『広辞苑』の広告であるが、もう片面はすこし変わった言葉を紹介したものだ。時期によるが、「言葉散策」「言葉の玉手箱」「『広辞苑』に遊ぶ」などの表題が付いており、また採番がされている。選抜された言葉も、「ランドルト環」「顎足付き」「けんもほろろ」「鯨幕」など、なんともいえない絶妙なものばかりでかなり面白い。特に気に入っているのは「言葉散策19『広辞苑』によれば」の「京へ築地に坂東さ」である(語感がとてもかっこいい)。
古本屋にあった『ことばの道草』をぱらぱらめくってみると、栞にある言葉が立項され解説ままに収録されていた。そして、ぼくの好きな「京へ築地に坂東さ」も収録されており、なじみ深さを感じたのである。なお、「京へ築地に坂東さ」の片面は、1991年に刊行された『広辞苑』の第4版の広告である。そして第5版は1998年に刊行されている。だとすれば、1999年に発行された『ことばの道草』は、栞に掲載した言葉を後にまとめたもの、ということになろう(詳細は序文等に記述されているだろう)。
あのとき、200円だして買っておけばよかった、と思う一方で、栞だからこその魅力があるのではないか、とも思う。
2019-12-27