279)知られざる闇ドラフトの世界(2)
中学2年になると本格的に不登校になり、真っ昼間からフューチャービー(FB)に入り浸るようになった。デュエルスペース(2階)には、社会人やさぼりの高校生がそれなりにいて、ぼくは自然と大人たちと関わるようになっていた。ありがたいことに、それなりに面倒みてくれる人が多かった。そして、この頃からFB内でいつくかのグループが目立ち始める。
学校が夏休みに入ると、内灘高校、津幡高校、星稜高校あたりの高校生組が連日顔を出すようになった。その中で一目置かれていたのが星稜高校組の中の数名だ。やけに金回りがよく、高価なレアカードを何枚も所有していたからだ。たとえば、当時としても珍しかったデュアルランドを9枚ずつもっていたり(当時は一枚あたり5,000円〜)、新シリーズがでると、ボックスを複数個入手していた。そして。それと同時に「闇ドラフト」という単語を耳にするようになる。
そんな星稜高校組を羨ましく思い、マネをし始めたのが内灘高校組である。組といってもU氏一人だ。Uは、暴力団組員の息子を自称しており、言うことを聞く子分を沢山作っていた。主としてぼくより若い新顔連中で構成され、彼らにはプリペイド式携帯電話を持たせていた。子分は、事あるごとに罰金として現金やカードが徴収されていたが、それなりに甘い汁も吸っていたのだろう。ちなみに、ぼくもブラックゼウスを無理やり奪われているので返して欲しい。
彼らがカードと現金を交換する、いわゆる現金トレードによって利益をあげていたであろうことは想像に容易い。では、その元手となるカードはどうやって入手していたのか、これが謎だ。いくらカードに値段がつくといっても、今ほど異常な高騰はしていなかった時代でかつカードパックの値段も高い。知識のない人を騙して、不平等にカードをトレードする「シャークトレード」も限界は早いだろう。
細かな時期は忘れたが、FB1階の店舗で、MtGカードが巨大なアクリル板で囲われるようなった。理由は相次ぐ万引きの対策としてだ。なんでも入荷したMtGのボックスが根こそぎ盗まれるという。だが対策むなしくまた万引きが起きた。どういう手口かというと、FBのレジは、ブック宮丸のパートが担当するタイミングがある。その時を狙ってわざと難しい注文することで、担当を屋根裏にある倉庫に探しに行かせ、その隙にレジ内に立ち入って盗むというのだ。
ほぼ同じ時期にFBの会員証が流出し、それが闇会員証として流通した。正規の半額程度で売買されていたようだ。FBの会員証は、MtG風の意匠で、それに対応するバーコードのシールがあったと思う。そのカードとバーコードのシールを個人が所有している訳だから、これが盗品であることは日を見るよりも明らかである。後に聞いた話だと、レジに隣接した柱が死角になっており、そこから盗んだとのこと。
いよいよ本題に入る。やはり同じ時期に、2階でデッキやカードファイル、それどころかカバンやその他貴重品が無くなる、という紛失もとい置き引きによる盗難事件が多発した。そして、この盗品をグループ内で腑分け(=ドラフト)する行為こそが、「闇ドラフト」と呼ばれるものの正体である。つまり、FBでは、組織的な犯罪行為がさも当然のように行われていたのだ。噂では「闇ドラフト」は、元町にあったマンガ喫茶「ゆう遊空間」で行われていたとも聞く。
彼らの羽振りのよさは、窃盗である闇ドラフトと現金トレードによってもたらされた組織的な犯罪収益からきていた。ちなみに、闇ドラフト以外にも、高価なカードや現金を無理やり賭けさせてイカサマで奪いあげる、という手法もよく使われた。ぼくも被害にあったのでよく覚えている。また、野々市のあったカードショップが万引きによって潰れたという噂も耳にしたが、今にして思えばこの件も闇ドラフトが関連していた可能性がある。
中学3年、いよいよ最後の年に入る。ここに来て勢力図に動きがあった。これまでは、高校生組が幅を利かせていたが、手口が知れ渡ったのかヤンキーが入ってくるようになった。置き引きだけでなく、1階で万引きしたもの2階で堂々と売りさばいたり、かつあげが横行し始める。オタクが集まるはずのカードショップにヤンキーがたむろする異様な光景が広がっていた。ぼくが所属していた高岡中学でも、FBに行くと事件に巻き込まれるので立ち寄ってはいけない、という訓告がでたほどだ。そんなこともあり、ぼくも自然とFBに足が向かなくなっていった。
以上が、ぼくが小学生5年から中学3年の5年間に渡ったカードゲームとの係わりである。それから数年後、ゲームの攻略本を買うのにFBに行ったが、当時問題を起こしていたメンバーはすでにいない雰囲気だった。当時の店員もすでにおらず落ち着いた様子だったが、2011年にFBは静かに閉店を迎えた。
FBの客や日本人はとんでもないやつらなのだろうか。答えはNoだ。なぜなら、問題があるのは、FBに出入りしてた客のごくごく一部だからだ。したがって、彼らを個別で罰すればいいだけの話である。実際、罰されたのではないかと推測する。そして、これは前回取り上げた、ベトナム国籍からの買取禁止の差別についても全く同じことが言えるだろう。
しかし、トレーディングカード業界が抱える構造の問題も少なくはない。投機で本当に儲かるのは誰だろうか。
2023-08-22