69)また『物質と記憶』が
ベルクソンの主著の一つ『物質と記憶』(1896)が講談社学術文庫からまた出版されるようだ。「また」というのは、これまでに7種もの日本語訳が出版されているからだ。そして、これだけ出版されるのは『物質と記憶』がそれだけ愛されていることの表れであろう。だが裏をかえせば、決定版が未だ存在しない、ということでもある。
とはいっても、『物質と記憶』は結局のところ訳書であるから、決定版の不在はどうも腑に落ちない。なぜなら、ベルクソンの文章は明晰かつかっこいい、という印象があるからだ。日本語訳がよほど難しいのか、それともこれまでの訳に何かしらの問題があったのだろうか。なにはともあれ、今回の発売を機に『物質と記憶』をじっくり読んでみようと思う。
『物質と記憶』の訳書一覧を作成した。国立国会図書館(NDL)の書誌情報をもとに出版年順に排列した。責任表示の著者名は自明なので割愛したが、「ベルグソン」と「ベルクソン」の2種類の表記があり、近年では「ベルクソン」が主流になっている。
タイトル | 訳者 | 出版社 | 出版年 |
---|---|---|---|
ベルグソン物質と記憶 | 高橋里美 | 星文館 | 1914 |
時間と自由意志 : 附・物質と記憶 | 北昤吉 | 新潮社 | 1925 |
ベルグソン全集2 : 物質と記憶 | 田島節夫 | 白水社 | 1965 |
物質と記憶 | 合田正人、松本力 | 筑摩書房 | 2007 |
新訳ベルクソン全集2 : 物質と記憶・身体と精神の関係についての試論 | 竹内信夫 | 白水社 | 2011 |
物質と記憶 | 熊野純彦 | 岩波書店 | 2015 |
心と身体・物質と記憶力 : 精神と身体の関係について | 岡部聰夫 | 駿河台出版社 | 2016 |
物質と記憶 | 杉山直樹 | 講談社 | 2019 |
2019-05-10